血圧百寿 第2章

第2章 血圧上昇のメカニズム

2-1 流体の圧力は何で決まるか
流体の圧力は、抵抗がないと発生しません。それは、劇場に入る観客のケースで考えると、よく分かります。大勢の人が劇場に入ろうとする時、入場通路が狭いと押し合いへし合いになります。その押し合いへし合いが、人の流れの圧力です。

図2-1

入場通路が狭いと、それが抵抗になって圧力が上がります。観客が多くても圧力は上がります。早く入場させる必要があるほど、押し合いへし合いが激しくなります。しかし、入場通路が広い時や、入場者が少ない時には、圧力は立ちません。
このように、流動する物体の圧力は、それだけで独立して決まるものではなく、流量と抵抗が決まった後に、それに従属して自動的に決まります。流体の物理現象として、流量と抵抗は独立して決まる「独立事象」であり、圧力は独立事象に従属して決まる「従属事象」なのです。
血圧/血流/血管抵抗の関係も、普通の流体と同じです。血管抵抗は老化によって増加してゆきます。それは血流量や血圧とは無関係の独立事象です。血流量は体が必要とするだけ流さなければなりませんから、それも独立事象として決まります。そして血管抵抗と血流量が決まると、その2つの従属事象として血圧が決まります。すなわち、血圧は自分勝手に決まるものではなく、血流量と血管抵抗に従属して自動的に決まります。血圧は勝手に上げ下げできるものではないのです。これは流体力学の常識で、血圧を正しく理解するために重要なポイントです。

2-2 血圧を因数分解する
血圧と血流量と血管抵抗との関係を表す関係式があります。それは、中学の理科で習った「電圧=電流x抵抗」というオームの法則と同じです(図2-2)。
図2-2

血圧/血流/血管抵抗の3者の関係も同じで、

血圧 = 血流量 x 血管抵抗  となっています。

実際、医療分野ではこの関係式で血管抵抗を計算することがあります。心臓から肺に行く動脈が詰まって起きる「肺高血圧」に対して、手術が可能かどうかを判断するのに用いられます。
この式の重要な点は、血圧という複雑な事象が、血流量と血管抵抗という2つのシンプルな因子に、因数分解されていることです。因数分解すると複雑な現象がシンプルに理解できるようになります。たとえば中学の数学で習いましたが、「X2乗+2X+1」という式は(X+1)(X+1)に分解できます。複雑な2次式が簡単な1次式2つの掛け算になるのです。同じように、血圧を血流量と血管抵抗に因数分解すると、血流量の年令変化はどうか、血管抵抗の年令変化はどうかと、それぞれの因子にシンプルな予測を立てれば、血圧の年令変化が計算できるようになるのです。
では、血流の年令変化と血管抵抗の年令変化とを、生理学的に合理的に想定して、それらを掛け合わせて、血圧の年令変化を計算してみましょう。

2-3 年をとると血管抵抗が増える
まず、血管抵抗が年令とともにどう変化するかを、合理的に想定します。人は年をとると、血管の抵抗が増えてきます。血管の壁が硬くなったり、血管内に汚れがたまったり、血液がドロっとしたりしてくるからです。これは、白髪になったりシワができたりするのと同じで、老化現象ですから避けられません。血管抵抗は30代から増加し始めて、40才くらいまでは5年ごとに2%ずつ増えて行き、40才くらいからは5年ごとに4%ずつ増えて行くと想定します。それが図2-3です。
図2-3

2-4 年をとっても血流量は維持される
次に血流量が年令とともにどう変化するかを想定します。電気回路の場合は、電池の電圧が1.5ボルトなどと一定の場合は、回路の抵抗が増えてゆくと、電流が減ってきて電球は暗くなります。もし人も同じようであれば、血管抵抗が増えれば血流量が減ってゆくはずです。しかし人はそうはなりません。電池のように電圧一定ではなく、心臓に余力があってパワーアップできるからです。心臓は普段は穏やかに動いていても、階段を上ったり走ったりすると激しく動きます。それが心臓の余力です。
生命維持のためには血流を保つことが最重要ですから、普通に健康な人は、老化で血管抵抗が大きくなっても、心臓が余力を発揮して血流を保ちます。そこで、40才くらいまでは若いときの血流量が維持されると想定し、45才くらいから5年ごとに1%くらいずつ減り始め、60才を越えるころから2%ずつ減ると想定します。それが図2-4です。これらの想定が実際と違っていると、ここから血圧を計算しても現実と一致しないわけですが、ここまでの想定は、加齢現象としてシンプルで、生理学的にも合理的ですから、実際とそれほど大きく違ってはいないと思われます。

図2-4

2-5 血圧の年令変化のシミュレーション
ここまで想定すれば、あとは血圧は「血圧=血流量x血管抵抗」の式で計算できます。図2-3の表の各年令の数値と図2-4の表の各年令の数値とを掛け合わせます。たとえば、45才の血管抵抗の想定値は1.08で、血流量の想定値は0.99ですから、45才の血圧の計算値は、1.08×0.99=1.069となります。全体では図2-5のようになります。
図2-5

これを実際の血圧に換算します。30才の時の血圧が120mmHgだったとすると、これらの数値すべてに120を掛ければ、図2-6のように血圧の年令変化が得られます。
図2-6

これが、血流量の年令変化と血管抵抗の年令変化とを想定して、「血圧=血流x血管抵抗」で計算した血圧の年令変化です。
血圧は40才くらいから、血管抵抗の増加につれて直線的に上がってゆきます。それは心臓が血管抵抗の増加に抗して、血液の送出量を何とか保っているためです。しかし60代にもなると、心臓が弱ってきて送出量が減り、血圧上昇はゆるやかになります。さらに80代にもなると、心臓の送出量がさらに減ってきて、血圧は上がらなくなります。
このグラフは図1-4のフラミンガム調査の平均値や図1-6の NIPPON DATA と良く一致しています。図2-7は、これらのグラフを1つのグラフに書き込んだものです。

図2-7

2-6 流体力学の実験
ここまで、血圧の値を勝手に計算しているように見えるかも知れませんが、実はこれは流体の実験で確かめることができます。図2-8のようにポンプ(心臓に相当)と配管(血管に相当)と調節弁(抵抗に相当)を用意します。

図2-8

調節弁の角度を変えて抵抗を変え、流量計を見ながらポンプのパワーを変えます。図2-3の表の設定値のように抵抗を変えてゆき、流量計を見ながら、図2-4の流量になるようにポンプの電力を調整します。そしてそのつど圧力計の値を記録してゆくと、実際に図2-6のグラフが得られます。流体というものは実際にこのように振る舞うのです。

2-7 血圧上昇のメカニズム
フラミンガム調査の結果は、血圧の年令変化の最高のデータです。血圧の年令変化はこれで完全に確定しています。すべての医療者や研究者は、このデータに最大の敬意を払う必要があり、これを無視した議論はすべて「非現実的」です。
血圧は、血流量と血管抵抗という独立事象に従属した、従属事象です。加齢による血圧上昇は、加齢による血流量の変化と、加齢による血管抵抗の変化とを、それぞれ独立変数として想定して、公式に従って計算すれば得られます。その想定が合理的であれば、計算結果は実際の血圧変化と一致するはずであり、逆に一致することで、想定が正しかったことが証明されます。そして計算結果は、フラミンガム調査や日本での調査の実測値と、良く一致しました。ですから、年をとると血圧が上がるメカニズムが、流体力学として解明されたわけです。加齢による血圧変化は、血圧を血管抵抗と血流量とに因数分解して、それぞれの因数の変化を、生理学的に合理的に想定すれば、シンプルに合成できるのです。

図2-9

血流量と血管抵抗と血圧の変化を1つの図面にまとめると図2-9のようになります。血液循環の状態を知るには、この3要素を認識する必要があります。しかし現実には、血圧は測れますが、血流や血管抵抗は測定しにくい、あるいは測定できないため、血圧だけが指標になっていて、医療者たちは「血圧が下がれば健康になる」という考えに陥っています。しかし生命の基本は血流にあります。「血圧は下がった、でも血流も減った」では健康になったとは言えません。

2-8 血圧降下剤のメカニズム
図2-10は、血圧降下剤で血圧を130まで下げている様子です。血圧降下剤によって、血流量を自然な減り方よりもさらに減らすことで、血圧を130に保っています。計算方法が分かっていますから、このようなシミュレーションも簡単にできます。血圧降下剤はすべて、血流量を減らして、血圧を下げる薬です(第5章参照)。現代の高血圧治療はすべてこの方式です。

図2-10

電圧が一定の電池回路では、抵抗が増えると電流が減って、電球は暗くなります。医療者たちは、血圧を一定に保つことが健康にとって最重要だと考えていて、そのためには血流を減らすべきだと考えています。血流が減って血圧が下がると「良かった、良かった」と喜びます。しかしその考えは自然の摂理に反しており、根本的に間違っています。体のすみずみまで酸素と栄養と熱を届け、体のすみずみで発生する老廃物を回収してくる、「血のめぐり」こそが生命活動の根本であって、それを減らした方が健康に良いなどという理屈はどこにもありません。

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