血圧百寿 第3章

第3章 血圧は自然に任せよう

3-1 100才 までの血圧シミュレーション
第2章で血圧の年令変化を、実際の調査に合わせて80才まで計算しました。計算は簡単ですからそれを100才まで延長してみましょう。80才以降も血管抵抗は同じように増加すると想定します。一方で血流量は、心臓が弱ってきて減り方が80才以前の2倍になると想定します。すると血圧の年令変化は図3-1のようになります。点線は日米での実際の測定値です。

図3-1

80才以降は、血流量が減る効果が大きくなって、血圧は下がってきます。フラミンガムの調査結果でも、80才以降は血圧が下がっていく兆候が見られます。
100才の人の血圧がどれくらいかを、元・老年医学会長で愛知医科大学教授だった田内久氏が、2000年発行の著書「百寿者の秘密」(裳華房)で報告しています。1997年に沖縄の100才の男女341人の血圧を調べたところ平均130だったそうです。それを図に星印で示しました。グラフの終点とピタリと一致しています。田内氏はまた、厚労省の調査で、80代の人の血圧が下降し始めたデータがあると報告しています。これらの事から考えて、このグラフはほぼ正しいと思われます。すなわち人の血圧は年令とともに図3-1のように変化してゆき、個人個人の血圧は、この平均線の上下20くらいに分布します。ですからこのグラフから、自分の自然な血圧が10年後、20年後にどうなるかが分かるわけです。
このグラフの形は示唆的です。ボール投げでは、山なりに投げた方がボールは遠くまで届きます。人生訓的に言えば、人生はこういう「血圧の山」を越えて、ようやく100才までたどりつけるとも言えます。血圧が高いのは50代から80代までの一時的なことで、血圧が下がり出したら終末期ですから、むしろ血圧が高いうちが花です。これからの時代、高令化がますます進みます。多くの人々が「血圧の山」を越えて90才、100才まで長生きし、「70代、80代の若い頃は血圧が高くて、まだまだ元気だったなぁ」と言うようになるでしょう。

3-2 血管は血圧 185 まで破れない
血圧が高いと、血管が破れるリスクが高まります。東海大学医学部の大櫛陽一名誉教授が、著書「血圧147まで薬は飲むな」(小学館)で次の事実を紹介しています。

アメリカのThe New England Journal of Medicineという権威のある論文誌に、最高血圧は185まで上がっても大丈夫という研究結果が出ています

氏の説明では、脳梗塞を治療する薬にt-PAという薬があります。脳梗塞が発症した初期にこれを投与すると、血管をふさいでいた血栓(血の固まり)が溶けて、詰まっていたところが通ります。ただし服用中にどこかの血管が破れると、血が止まらなくなり、失血で死ぬおそれがあります。そのため、血管はどのくらいの血圧で破れるのかという研究が行われ、特別な病歴などがなければ、185までは血管は破れないという結論になったのです。ですからアメリカの救急医療基準は、血圧185までならt-PA治療をして良いと定められています。

3-3 血圧は 年令+90 までよい
日本ではつい30年ほど前の昭和の時代まで、血圧は「年令+90」くらいまではよいとされていました。それを図にすると図3-2のようになります。
大多数の人の自然な血圧は、前節の血圧100才シミュレーションの上下プラスマイナス20mmHgくらいに分布しています。50代より前は、ほとんどの人は特に心配することもなく、80才を越えたらどうせ下がり始めます。ですから血圧を気にするのは50代から80代まででよく、その間は「年令+90」を越えない程度に気をつけていれば十分です。

図3-2

これが昭和の血圧の考え方です。現実に即しており、血圧上昇のメカニズムにも合致しています。血圧が高いと確かに血管が破れるリスクは増えますが、185までは破れないと考えられていますし、50代から80代の間は「年令+90」くらいに収まっていれば、ことさら心配することはありません。

3-4 下の血圧は気にしても意味がない
ここまで述べてきたのは、いわゆる「上の血圧」です。「収縮期血圧」と言います。ところが「下の血圧が高い」と言われることがあります。下の血圧とは「拡張期血圧」です。それは一体何なのか少し解説しましょう。
結論から言いますと、下の血圧は上の血圧を反映しているだけで、大した意味はありません。

図3-3

図3-3は心臓から動脈、毛細血管への血液の流れを表しています。心臓から押し出された血液は動脈に入り、つぎに動脈の弾力で末端の毛細血管へと押し出されて行きます。この時の動脈の圧力の変化を図3-4に示します。真ん中の赤い線が、普通の変化です。

図3-4

◆収縮期血圧(上の血圧)
心臓が血を押し出す時(収縮期)に、動脈の血圧は上がります。そのピークを収縮期血圧、または上の血圧と言います。これは血液が流れている時の圧力ですから、流体力学の考えが適用できます。
◆拡張期血圧(下の血圧)
そのあと心臓が拡張して、静脈側から血液を吸いこんでいる間(拡張期)に、動脈内の血液は動脈自身の弾力によって毛細血管に押し出されて行きます。すると動脈内の血圧はだんだん下ってきて、心臓の次の拍動が来る直前に最低になります。これを拡張期血圧、または下の血圧と言います。これは血液が静止しかかっている時の圧力ですから、流体力学の考えとは少し違う状態です。
◆下の血圧が変化するメカニズム
図3-4の上段のオレンジ色の線は、毛細血管の抵抗が大きくなっていることを示しています。年をとると毛細血管を血が通りにくくなって、動脈から血液を押し出すのに時間がかかるようになります。すると動脈の血圧が十分に下がりきらないうちに、心臓の次の拍動が来ます。動脈の血圧はまだ途中までしか下がっていませんから、下の血圧は高くなってきます。
下段の茶色の線は、動脈が硬くなっていることを示しています。老化で動脈が硬くなると、動脈は縮みにくくなり、下の血圧はこのように早く下がるようになるのです。これはシンプルな物理現象です。ガラス管のような硬い容器に液体を押し込んで、圧力を高くしておいて、その液体が1滴でも外に漏れると圧力はストンと落ちます。硬い容器は縮むことができず、液体は膨張しないので、液が漏れると容器にスキマができて、内圧がストンと落ちるのです。これと同じ理屈で、老化で動脈が硬くなってくると、血液がちょっとでも毛細血管に押し出されて、動脈内の血量が減ると、動脈の血圧は早く下がるようになります。そして次の拍動が来るまでに、若い頃よりも低いところまで落ちます。つまり年をとると下の血圧は下がります。
◆下の血圧の年令変化
こういうわけで、老化によって下の血圧は、上がる要素と、下がる要素とがあります。では年をとると下の血圧は実際どうなるのか。それを示すデータがあります。NIPPON DATAでもフラミンガム調査でも下の血圧が測定されています。それを図3-5に示します。

図3-5

日本人でも米国人でも傾向は同じで、下の血圧は50才頃まで上昇します。老化で毛細血管の抵抗が増えるにつれて、上の血圧は上昇するわけですが、50才頃まではまだ動脈に弾力があるので、下の血圧もそれにつれて上昇します。ところが50才を過ぎるころから動脈が硬くなってきて、上の血圧は上がっても、下の血圧はそれに追随できなくなり、ストンと下がるようになります。その結果、下の血圧は50代から下がり始めるのです。
ですから、30代に75だった下の血圧が、70代でまた75に戻っても、その2つの75は意味が違います。70代の人に、下の血圧が低いから安心ですね、と言っても意味がありません。しかし別に心配することでもありません。単に老化で血管が硬くなっているだけです。下の血圧が高い場合は、毛細血管が通りにくくなっているわけです。それも単なる老化現象ですから、心配しても意味がありません。
◆「上」を下げれば「下」も下がる
図3-6は京都府医大で平均年令65才の約3000人に、血圧降下剤を4年間服用させて、血圧を下げた記録です。上段が「上の血圧」で下段が「下の血圧」です。血圧降下剤で上の血圧と下の血圧が完全に連動して、両方とも20%くらい下がっています。

図3-6

この論文はデータに虚偽があって、2013年に撤回されましたが、上下の血圧の連動傾向については正しいと思われます。他の臨床研究でも上下の血圧が調べられていますが、すべてこれと同形のグラフになります。すなわち、上下の血圧は短期的にはシンプルに連動するだけです。
高血圧の基準値は、上が140以上または下が90以上となっていて、上の血圧が140以下でも、下の血圧が90以上だと高血圧と診断されて、血圧降下剤が処方されます。しかし血圧降下剤は上下の血圧を同時に下げるだけで、下の血圧だけ下げることはできません。また、上下の血圧の差(脈圧)が問題だと言われますが、それは血管の老化の状態を示しているだけで、問題だからと言って、血管の老化が止められるわけでもありません。それに下の血圧で血管が破れるわけでもありません。ですから特別な事情がない限り、下の血圧は気にしても意味がありません。

3-5 血圧の自然な下げ方
血圧はむやみに下げなくてよいのですが、あまり上がりすぎると血管が傷んだり、疲労したり、ついには破れたりするリスクが増えて、脳出血や眼底出血などのリスクが増えます。ですから「年令+90」より上には、あまり上がりらない方がよいのです。ではどういう下げ方が正しいでしょうか。もう一度、血圧の式を見てみましょう。
血圧 = 血流量 x 血管抵抗
年をとると血圧が上がるのは、血管抵抗は増えるのに血流量が保たれるからでした。それなら血流量を減らせばよい、と考えるのは本末転倒です。血流を保つことが健康の基本だからです。正しい方法は、血管抵抗が増えないようにすることです。
その方法はいろいろあります。運動や体操をする、ストレッチをする、マッサージをする、体重を減らす、呼吸を整える、瞑想する、リラックスする、ぬるめの湯でゆっくり入浴する、笑う、睡眠を十分とる、食事に気をつける、水分をこまめにとる、過度な飲酒はしない、喫煙しない、などです。
第3章で紹介した福岡県の真島医院のように、牛や豚、鶏などの獣脂の摂取を減らし、魚や植物の油を増やすのも有効です。牛や豚や鶏は人間より体温が高いので、獣脂は人体の血管内で固まりやすく、植物油や魚油は低温でも液状なので、人体の血管内で固まりにくいからです。
また、厚生労働省は「水飲み健康法」を推奨しています。同省のサイトには「体の中の水分が不足すると、熱中症、脳梗塞、心筋梗塞など、さまざまな健康障害のリスク要因となります。健康のため、こまめに水を飲みましょう」と書いてあります。

図3-7

水分が不足すると血液が濃くなって、抵抗が増えて流れにくくなり、血栓(血の固まり)ができやすくなります。しかし水道水をそのままたくさん飲むことは、苦手だという人がけっこういます。その点、浸透性の良い水は楽に飲めて、毛細血管の血流が良くなり、自然に血圧が下がることが、多くの人で体験されています。

◆健康食品
薬ではなく、自然な「健康食品」なら良いかというと、そういう問題ではありません。そもそも血圧を「年令+90」以下に下げる必要はないので、たいていの人は、わざわざ健康食品を買う必要はありません。それに、血管抵抗を減らすことなく、血流量を減らすことで血圧を下げている「健康食品」は、原理として良くありません。一方で、毛細血管の血管抵抗を下げることで血圧を下げる健康食品は、合理的です。
下げるのではなく、「下がる」のが自然流です。ただし「年令+90」であれば十分です。

3-6 減塩は無用
そもそも血圧を「年令+90」以下に下げる必要はないので、たいていの人は減塩は無用です。しかも実は少々の減塩で血圧が下がることはありません。
図3-8

図3-8のように食塩摂取量を8.7g/日から5.9g/日まで減らしても血圧は2mmHgくらいしか下がりません。しかも5.9g/日まで減らすことは簡単ではありません。仮に下がっても減塩は血流を減らすだけですから、血圧を下げる方法として良くありません。つまり減塩は何重にも無意味で無用です。
◆血圧を上げられない人々
先述したNHK番組「今日の健康:高血圧」では、減塩で血圧が下がる例として、南米の未開のヤノマミ族が紹介されました。ヤノマミ族とは南米の密林に1万年も住む少数民族で、地域に塩がありません。彼らの尿の塩分量を調べたら、1日分0.012gしかありませんでした。そして彼らの血圧は、50才以上でも100を越えていませんでした。

だから年をとったら血圧が上がるとは限らない、減塩すれば血圧は下がる、と高血圧学会理事長は図3-9を示して説明しました。

図3-9

しかしこれは「血圧を上げるには塩分が必要だ」という生理的メカニズムを示しているに過ぎません。ヤノマミ族は図のように、30代から血流量が減り始めて、血圧が下がります。彼らの寿命は長くありませんし、1万年間、文明を作ることができず未開の暮らしをしています。ここでヤノマミ族の話が出てくること自体が奇妙ですが、実はこれは医療者たちが、年を取ると血圧が上がるという、医療者たちにとって不都合な自然現象に反論するための、定番なのです。年をとっても血圧が上がらない例が、世界中探してもヤノマミ族などわずかな例しかないのです。
◆血圧を上げるには塩分が必要
人体は電気仕掛けで動いていて、体液の塩分濃度が変わると、電気信号が変わって心臓が止まります。ですから人体の塩分濃度は0.9%で一定に保たれていて、日本人もヤノマミ族も、体内の塩分濃度は同じです。ヤノマミ族は長い年月で適応して、尿や汗に排泄する塩分が少なくなっているのです。その備えがない日本人が、塩分摂取をヤノマミ族並にしたら、電気信号が狂って倒れてしまいます。
昔、戦国時代に甲斐の武田信玄は相模の北條、駿河の今川と断交になってしまい、海の塩を入手できなくなり、領民も武士もバタバタと倒れました。見かねた宿敵の上杉謙信が越後の塩を甲斐に送りました。「敵に塩を送る」故事として知られています。
塩分の摂取量は1日にXXグラムが理想だなどと言われますが、それは多人数の平均なら意味がありますが、個人個人には無意味です。家にじっとしている人と、建設現場で働く人とでは、必要量がまったく違うからです。必要量は簡単です。出て行った分だけ摂取する必要があります。その必要量は自然に分かるように、人間は出来ています。
最近の研究で、カナダのマックマスター大学のメンテ教授らが、塩分摂取量と死亡率との関係を確定して、2016年に世界的な医学誌である「ランセット2016 388 465」に発表しました。その数値を医師で著述家の近藤誠氏が、サンデー毎日2017年11月号で紹介しています。図3-10は近藤氏が提示した数値を、筆者がグラフ化したものです。
1日に11.4グラムの食塩を摂取する人の死亡率を基準(1.0)とすると、7.6g未満の人は死亡率が1.39になることが分かりました。4割も多く死ぬのです。しかし逆に、塩分量が17gまで増えても、死亡率は変わりません。体内の塩分が濃くなるとノドが乾いて水を飲み、過剰な塩分は排泄されるからです。塩分は多くても構わないが、不足してはダメなのです。

図3-10

夏になると、熱中症予防のために塩分を取りましょうと言われます。これは高齢者だけでなく、学校給食も減塩競争で塩分が減ってしまい、子供たちが熱中症でバタバタ倒れています。冷蔵庫がなかった昔は塩漬けの食物が多くありました。塩鮭も梅干しもタクアンも、ひどく塩辛かったものです。しかし最近は日本人の塩分摂取は平均して、ちょうど上図と同じ11gまで減っています。これ以上の減塩は無用です。ただし化学合成の NaCl 99%の塩は体に良くありません。しっかりと天然塩を摂りましょう。

3-7 低血圧の改善法
一方で、低血圧で困っている人もたくさんいます。原因はいろいろあるでしょうが、そのうちの一つは心臓が弱っていることです。心臓が弱っていると血流が減って元気がなくなります。血圧が低いことが問題なのではなく、血流が少ないことが問題の本質です。心臓が弱るのは、もともと心臓の機能に問題がある人を除くと、何らかの理由で心臓の筋肉に血液が十分届かなくなるからです。特に女性の場合、心臓の筋肉へ行く血管に、レントゲンでは見えないほどの細い血管があって、そこが詰まりやすくなります。そこが詰まると心臓が弱って元気が出なくなります。これは運動とかストレッチとか食事では、なかなか改善できませんが、浸透性の良い水を飲んでいたら改善されたという実例があります。
実例:血圧が60台から90台に上がった
いつも血圧が60台で、朝起きられなかった40代の女性(Fさん 大阪市)が、浸透性の良い水を飲むようにしていたら、数ヶ月で血圧が90台まで上がり、くすんでいた顔色が透明感が出て元気になりました。その女性は保険の営業員をされていて、上司や同僚や顧客から「元気になったね」と言われると喜んでいます。
実例:心不全・腎不全が良くなった
40代の女性のKさん(神戸市)は航空会社でCAをされていて元気に働いていました。ところが2013年9月に、息苦しさ、ひん脈が続き、心不全と診断されました。BNP(心不全の数値で正常値は20以下、500以上は重症)が2500になっていました。2ヶ月入院して利尿剤などの投薬治療を受けましたが、腎機能を示すeGFR値(90以上が正常。40~60は中度の腎不全)が41まで低下し、手術もできず不安でした。2014年12月から、浸透性の良い水を1日に1リットル飲み、それまではシャワーで済ますことが多かったのですが、浸透性の良い水で浴槽にゆっくりつかって入浴するようにしました。すると手足の冷えがなくなり、息切れもしなくなりました。3年後の2017年にはBNPは200台まで下がり、利尿剤や他の薬もやめることができ、eGFRも70台まで回復しました(下図)。一時は死におびえていたのに外出もできるようになったと喜ばれて、2017年にこの検査データを送ってきてくれました。

血圧のデータはありませんが、心不全が良くなったのですから、血圧も上がったと推測されます。このように、心臓の筋肉への血流が不足して起きている低血圧は、浸透性の良い水を飲むことで改善される可能性が大いにあります。

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